企業経営者は社員のやる気を引き出すために色々と苦労されていると思います。
社員のやる気を引き出す機能的な仕組みとしてストックオプションが検討されることもあり、上手くすれば有効に機能してくれますが、いくつかのデメリットがあるので導入には十分な検討が必要です。
このデメリットに対応できるとするのが信託型ストックオプションで、株式を活用する先端的なロジックとして経営者の間で話題になっています。
本章では信託型ストックオプションのメリットやデメリットについて解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

■そもそもストックオプションとは?

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ストックオプションとは、社員や役員などが自社の株式を購入できる権利のことです。
ストックオプションを導入する場合、上場前など株式の評価が低いうちに社員や役員にストックオプションを付与しておきます。
ストックオプションの付与を受けた者は、将来会社が上場して株式が値上がりした際に、以前約束した安い価額で株式を取得できます。
そして株式が値上がりした段階で株を売却することで、値上がり分のキャピタルゲインを得ることができます。
ストックオプションを受ける社員は自分の会社が利益を出して成長すれば、その恩恵が自分に返ってくることになるので、一生懸命働こうと思えますから、経営者から見ると効果的に社員のやる気を引き出すことができます。
しかしストックオプションの発行時に割当対象や割当比率をあらかじめ決めておかなければならず、途中で退社された場合に問題になることがあったり、発行するたびに登記の費用や手間がかかるなどのデメリットもあります。
このデメリット面への対処が可能になるとして、信託型ストックオプションが考え出されました。

■信託型ストックオプションとは?

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従来のストックオプションは、利益を享受する受益者(ストックオプションを受ける社員や役員)と発行会社の二者が当事者となるものです。
信託型ストックオプションでは発行会社と受益者に加えて、委託者と受託者が当事者関係に入ってきます。
委託者は会社の代表者がなり、ストックオプションの信託を受ける受託者には信託会社などがあたることになります。
ロジックを順序だてて説明すると以下のようになります。

①委託者(会社代表)は受託者(信託会社など)と信託契約を結び、委託者が費用を払う
②受託者は信託契約に基づき、信託された金銭を発行会社に払い込み、新株予約権の割り当てを受ける
③発行会社は信託契約に基づいてポイントを受益者に付与する
④信託期間満了後、受託者が受益者に新株予約権を付与する

信託とはそもそも金銭など受益の対象となるものを相手に直接支払わず、契約に基づいて受託者経由で支払いをするという仕組みで、相続分野などで利用されているものです。
これをストックオプションという株式の活用方法に取り入れたもので、従来のストックオプションにはないメリットがあったり、従来の方式によるデメリットを回避することができます。
まずは信託型ストックオプションのメリットを見てみましょう。

■信託型ストックオプションのメリット

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①社員の貢献に応じた付与が可能

従来の方式では発行時に対象者や割り当てを確定しなければなりませんが、信託型の場合は社員の貢献度によってポイントを付与し、これに基づいて新株予約権を付与できます。
従来の方法では一旦権利を取得した後は貢献してくれなくなるリスクがありましたが、信託型では日々の貢献度合いが強まるほど利益を得られる仕組みのため、経営者側もリスクがなく、また受益者間の不公平も起きにくくなります。

②発行にかかるコストを抑えられる

従来のストックオプションでは、発行の度に登記の手間や費用などコストがかかるデメリットがありました。
信託型の場合、まとめて信託に割り当てた以降はポイントの付与をするだけなので余計なコストがかかりません。

③既存株式の希薄化を防げる

従来のストックオプションでは、発行時によっては行使価額が高くなり、キャピタルゲインの恩恵が小さくなることがあります。
その恩恵を大きくするためには株式の発行数を増やす必要があり、これをすることによって既存の株式の価値が下がってしまいます。
既存株式の希薄化は投資家が嫌がりますから、外部資本の導入に支障をきたすことにつながります。
信託型の場合、低額での付与が可能となるので、株式数を増やす必要がなく、既存株式の希薄化を防げます。

■信託型ストックオプションのデメリットや注意点

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信託型ストックオプションには以下のようなデメリットや注意点もあります。

①経営者の負担がある

信託型ストックオプションは会社の経営者が委託者となって金銭の払い込みが必要です。
委託者の固有の財産から支出することになるので、その負担がでます。
資力が十分にある場合は問題ありませんが、余裕がない場合は信託型ストックオプションの設計に支障が出ます。

②ポイント運用の設計が難しい

信託型ではポイントによって貢献度の調整がされるため、その設計を上手に行えないと正しい運用ができなくなります。
ポイント付与に係る規定を作成し、これを人事評価システムと連動させて運用しなければならないので、設計考案にはかなり苦労することになるでしょう。
ポイントを付与する時期や対象者、付与にかかる評価の基準をどうするかなどを綿密に考えなければならないので、時間的な余裕がないと導入すべきかどうか十分に検討することができません。
信託型ストックオプションの専門知識を有する外部の専門家に相談することもできますが、精通した専門家が少なく、また費用もかかります。

■まとめ

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本章では信託型ストックオプションのメリットやデメリットについて見てきました。
従来のストックオプションのデメリットを回避できるなど一定のメリットがあるもので、株式の活用法の一つとして検討できます。
ただ、信託型ストックオプションが自社に見合う制度か否かの判断自体が難しいこともあり、導入に踏み切るにはそれなりの時間と手間、費用を覚悟しなければなりません。
実際に導入を考える際には、専門家のアドバイスの元に充分な検討の上で実施するようにしてください。