スタートアップ企業にとって問題になるのは、実績及び信用がないことから資金確保が難しいということです。

しかし資金が無ければ実績を積むことができず、信用も得られません。

日本政策金融公庫はこの問題に対応するために作られた特別な金融機関で、スタートアップ企業に対し創業融資制度を設けて支援しています。

本章では自己資金が無くても創業融資の利用が可能かどうか見ていきます。

■日本政策金融公庫の新創業融資制度

日本政策金融公庫は「新創業融資制度」を設け、スタートアップ事業者に対し融資を行っていますが、原則として創業資金の十分の一の自己資金を用意することが条件となっています。

そのため全く身銭を切らずに本制度を利用することは原則としてできないのですが、この自己資金要件には例外があり、一定の条件に当てはまる場合は自己資金がなくても融資を受けられることがあります。

この例外は最近拡大したため、自己資金なしで融資を受けられるケースが増えるものと思われます

どのような場合に自己資金要件を満たさずとも融資を受けられるのか見ていきましょう。

 

■自己資金要件の例外7つ

 

①現在勤めている企業と同じ業種の事業を始める場合

具体的には以下のどちらかに当てはまる場合です。

(1)現在の企業に継続して6年以上勤めている

(2)現在の企業と同じ業種に通算して6年以上勤めている

上記(1)は勤務に継続性が必用であるところ、(2)は継続性が必要なく、通算で良いことに違いがあります。

本例外は、経験やノウハウがあれば成功しやすいので、融資回収の確実性があがるとして自己資金要件が緩和されるものです。

②大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上勤めている人で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める場合

上記①と同様に、経験、ノウハウを有し成功の可能性が高いとして要件が緩和されます。

③産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合

認定特定創業支援等事業とは、法律に基づいて市区町村が行う創業支援活動をいいます。

この活動に参加し修了を認めてもらえれば、事業成功の可能性が高いとして自己資金要件が緩和されます。

④民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める場合

銀行等と公庫が共同して融資可能な事案では、その分資金回収のリスクが下がるので自己資金要件が緩和されます。

⑤技術・ノウハウ等に新規性が見られる場合

新規性がみられる事業は国の経済発展に資すると考え、要件が緩和されます。

ただし新規性があるかどうかについては公庫側の独自判断となります。

⑥新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める場合

本例外は大掛かりな事業はそれだけ資金確保が難しいので、特別に自己資金要件を緩和して支援しようとする意図です。

⑦「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用予定の場合

上記の基本要領や指針は、中小の事業者が会計に詳しい人材確保が難しいことを考慮した、特別にルールが緩和された会計基準を指します。

これらの適用事業者は自己資金要件の緩和を受けられます。

 

■自己資金と認めてもらえるもの

前項で見た例外に当てはまる場合は自己資金なしで融資を受けられる可能性がありますが、そうでない場合はやはり自己資金が必要です。

多くの方がイメージする自己資金と、公庫に認められる自己資金は異なることがあるので、ここで確認しておきます。

まず、出所を証明できないタンス預金などは自己資金と認めてもらえません。

また親族などからの借入金も返金が必要ですので自己資金にはなりません。

自己資金として認めてもらえるのは、以下のような資金で出所を証明できるものです。

・自己名義の預金や配偶者名義の預金

・退職金や生命保険の解約金など

・贈与を受けた資金や相続した財産

・保有資産を売却した現金

・みなし自己資金

実質的に共有財産となっている場合、配偶者名義の預金も認められます。

贈与されたお金については返金の必要がないことを証明するために贈与契約書の作成が必要です。

またすでに起業している場合は、投下した起業にかかる費用を自己資金とみなしてもらえる可能性があり、これをみなし自己資金と言います。

■新創業融資活用の際の注意点

贈与されたと偽って申告するなど、本当は返金が必要な資金を自己資金に見せかける「見せ金」は絶対にバレます。

資金の出所についてはかなり詳細に調べられるので、偽ろうとしても無理です。

虚偽の事実が分かれば公庫側の心証が一気に悪化し融資の望みが完全に消えるので絶対にやめましょう。

■まとめ

本章では日本政策金融公庫が用意する新創業融資について、自己資金が無くても利用できるか見てきました。

原則として自己資金が必要ですが、例外に当てはまる場合は自己資金なしでも融資を受けられる可能性があります。

この例外条件は拡大され、より多くの人が自己資金なしでも融資を受けられる可能性が高まりましたので、可能性がありそうな人は積極的に検討してみましょう。