デザイン経営とはなんでしょうか?
通常、デザインはカタチや色合いなどの「見た目」のことです。
そんなデザインと経営にどんなつながりがあるのでしょうか?
本記事では「デザイン経営がどんなものか」「どんな経営方法なのか」「どんな人材ができるのか」といった、基本的な情報を紹介しています。
世界で成功している企業はすでに取り入れている「デザイン経営」とは一体、どのような経営方法なのか確認していきましょう。
目次
デザイン経営とは
デザイン経営とは、「経営にデザインを取り入れること」です。
とはいうものの、「デザイン経営」の定義には曖昧さが残っている状況。
デザイナーの間でも本定義はされておらず、企業経営者には伝わりにくいのが現状です。
この、デザイン経営は、経済産業省・特許庁が2018年5月に「デザイン経営」宣言をとりまとめました。
内容の要約は、「ほかに替えの利かないブランド価値、これまでにない新しいサービスや製品などを生み出すイノベーションを実現する力になる」とのこと。
プロダクトデザイン(製品の見た目などのデザイン)とは異なり、物理的な見た目だけでなく、組織や制度、戦略、さまざまな要素の関係性といった対象を「設計」することまでをデザイン経営としています。
そもそも経営にデザイン?
上記で「デザイン経営」について説明をしました。
ですが、ビジネスパーソンである経営者の皆様には「デザイン経営」と言われてもイメージがし辛いものです。
実際に経済産業省・特許庁でも、経営者の皆様に理解して頂くことの難しさを感じているほど。
そこで、特許庁が「デザイン経営」についてビジネスパーソン向けに取りまとめている「デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための“デザイン経営”ハンドブック」から、デザインについて要約すると以下の2つのことが見えてきました。
①「デザインの一般的なイメージ」と「デザイン経営」は大きく異なる
②現代の「デザイン」の解釈は多様で複雑
それぞれについてみていきましょう。
①「デザインの一般的なイメージ」と「デザイン」は大きく異なる
「デザイン」と聞けば、美しいカタチをしたものや、インパクトのある色使いなど、「見た目」に関するものだと答える人がほとんどです。
ですが、デザインの業界での解釈はそれだけではありません。
デザインは以下のように解釈に変化をしています。
・1950年代は見た目
・1970年代はニード・ファインディング【欲求の探索】
・現在は多くの意味を持つ
50年代のデザインは「見た目」を重視し、「美しさ」に価値があったとされています。
ですが、70年代にデザインは美しさだけでなく「より快適で使い勝手のいいもの」というような機能性に目が向けられるようになりました。
そして、グローバルかつデジタル化した現代では市場は大規模かつ複雑なものに。
現在は「解決すべき課題をいかに探して解決するか」、まだ見えていない新しい課題を探しだし、解決まで取り組む全てのことを「デザイン」と捉えることもできるようです。
②デザインの持つ意味は複雑
先ほど、「解決すべき課題をいかに探すか」、まだ見えていない新しい課題を探すために取り組む全てのことを「デザイン」と言いましたが、これは答えの一つに過ぎません。
現代において「デザイン」の持つ意味は多様で複雑です。
特許庁が21の企業に行ったヒアリングでも、異なるさまざまな解釈の回答が得られています。
・デザインは「マインドセット」
・デザインは「組織改革」
・デザインは「ブランディング/マーケティング」
・デザインは「課題発見」
・デザインは「美しさ」
出典:デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための“デザイン経営”ハンドブック(2020年3月23日、特許庁)
このように、企業における「デザイン」の定義はさまざまです。
デザイン経営を推奨する背景
ここで、デザイン経営に目が向けられている原因となった背景についても見ていきましょう。
日本は人口・労働力の減少中で世界的な市場での地位を落としています。
そんななか、デジタル革命と呼ばれる第四次産業革命に備えなければならない状況です。
そこで日本が対策のために注目したのがデザイン経営でした。
「アップル」や「ダイソン」など、競合企業が多数ある中で競争に打ち勝っている企業は経営戦略の中心にデザインを据えていることが分かったのです。
しかし、日本の経営者はデザインを有効な経営手段と認識していないのが現状。
結果、国際競争の環境で弱みとなっていると経産省・特許庁は考え、国際的に戦える競争力を養うために「デザイン経営」を日本の企業に取り入れようとしています。
デザイン経営の目的
デザイン経営の定義はさまざまですが、目的は「企業競争力の向上」一つです。
経産省・特許庁はデザイン経営による「ブランド価値の向上」と「イノベーションの促進」の効果で「競争に強い企業」が誕生すると考えているため。
デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。それは、個々の製品の外⾒を好感度の⾼いものにするだけではない。顧客が企業と接点を持つあらゆる体験に、その価値や意志を徹底させ、それが⼀貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。なぜか。デザインは、⼈々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。供給側の思い込みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせる。誰のために何をしたいのかという原点に⽴ち返ることで、既存の事業に縛られずに、事業化を構想できる。
引用:「デザイン経営」宣⾔ 経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会 2018年5⽉23⽇
経済産業省・特許庁は、デザインが経営に及ぼす影響を上記のように取りまとめていますが、正直な所どういうことなのか非常に分かり辛いものとなっています。
ですが、最大の目的は「企業競争力の向上」です。
デザイン経営の取り組み
経産省・特許庁はデザイン経営を行うにあたって以下の2点を必要条件としています。
・経営チームにデザイン責任者がいること
・事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
そして具体的な取り組みとして以下の7つを上げています。
①デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
デザインを企業戦略の中核に関連付け、デザインについて経営メンバーと密
なコミュケーションを取る。② 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
デザイナーが最上流から計画に参加する。③ 「デザイン経営」の推進組織の設置
組織図の重要な位置にデザイン部⾨を位置付け、社内横断でデザインを実施
する。④ デザイン⼿法による顧客の潜在ニーズの発⾒
観察⼿法の導⼊により、顧客の潜在ニーズを発⾒する。⑤ アジャイル型開発プロセスの実施
観察・仮説構築・試作・再仮説構築の反復により、質とスピードの両取りを
⾏う。⑥ 採⽤および⼈材の育成
デザイン⼈材の採⽤を強化する。また、ビジネス⼈材やテクノロジー⼈材に
対するデザイン⼿法の教育を⾏うことで、デザインマインドを向上させる。⑦ デザインの結果指標・プロセス指標の設計を⼯夫
指標作成の難しいデザインについても、観察可能で⻑期的な企業価値を向上
させるための指標策定を試みる。
出典:「デザイン経営」宣⾔ 経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会 2018年5⽉23⽇
これらの取り組みを行うことで、顧客の潜在ニーズの発⾒や企業のイノベーション⼒を向上させることができると、経済産業省・特許庁はしています。
デザイン経営をするための人材
また、経済産業省はデザイン経営を主導するスキルをもった人材の育成も必要と考えています。
デザイン経営を主導する人材の育成をするための研究会も開かれており、経産省の「第1回高度デザイン人材育成研究会」の資料に高度デザイン人材像として5つのパターンが記載されていました。
【サービスデザイナー】
・製品やサービスを含む全ての顧客体験を統合的にデザインする
・幅広い業務範囲や内容への対応
・人の持つ潜在的な課題や気持ちを捉える
(類似の職種:シニアUXデザイナー/デザインテクノロジストなど)【ビジネスデザイナー】
・社内外のハブ/ファシリテーターの役割
・事業企画者としての企画力/課題解決力
(類似の職種:デザインコンサルタントなど)【ビジョンデザイナー】
・世の中の流れを俯瞰し未来を構想する能力
・ビジュアルでビジョンを示す能力
・既存の常識にとらわれず本質を捉える
(類似の職種:ソーシャル・アントレプレナーなど)【デザインストラテジスト】
・クリエイティビティで事業課題を解決する
・事業収益/成長を生み出す
(類似の職種:チーフ・デザインオフィサー(CDO)など)【デザインマネージャー】
・デザイン人材が創造的かつ主体的に活動・活躍できる組織や制度をデザインする
・デザイン主導組織をつくる
(類似の職種:デザインカタリストなど)
出典:第1回 高度デザイン人材育成研究会 資料2 討議用資料
これらのデザイナーを確保することで、デザイン経営を行うことを経産省は目指しています。
まとめ
デザイン経営のポイントについては以下の通りです。
・デザインの意味は「見た目」だけではない
・ニーズの発見からから解決するまでの全てを「デザイン」と考えることができる
・海外では「デザイン経営」で成功している企業がある(アップルなど)
・「デザイン経営」には企業競争力を高める効果に期待ができる
・経産省など国を挙げて「デザイン経営」を推進している
「デザイン経営」をすることで、世界的に成功している企業は存在しています。
世界規模なので、中小企業では・・・
と考えてしまうかもしれませんが、そのようなことはありません。
特許庁の見解でも、フットワークの軽い中小企業のほうが優位性があるのでは?と考えられているほどです。
今後、ますます国が力を入れるであろう「デザイン経営」ですので、デザイン人材の確保の準備も検討してみましょう。
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