4月に実施された金融政策会合では植田新総裁が初めて出席したうえで、日銀が金融緩和の現状維持を決定しました。
これを受けて、米ドル/円相場は大幅なドル高・円安が進行。この流れは5月まで続くことも想定され、あわや昨年のような歴史的な円安進行が再び始まるのかと懸念する声も一部で挙がったようです。
6月のドル/円相場は1ドル130円後半から140円台で推移していたものの、同月に実施された米連邦公開市場委員会が政策金利の見通しを0.5%の追加利上げする可能性を示したことなどが要因となり、一時1ドル141円台までの円安進行がみられました。
さらに6月の金融政策会合においても金融緩和の維持が決定。
10年金利目標の修正を懸念した市場では、ドル/円相場が1ドル142円と、相変わらず円安の傾向が続く結果となっています。
では、今後のドル/円相場の行方はどのように推測できるのでしょうか。

日本とアメリカの金融政策の方向性の違い

日本とアメリカを表す画像

鍵となるのは、やはり日本とアメリカの金融政策に対する方向性の違いがいつまで続くのかという点なのではないでしょうか。
先にも述べた通り、日銀は今後も大規模な金融緩和を継続することを発表しています。
金融緩和とは、市場に出回るお金の供給量を増加させることによって、経済の活発化を図り、景気の上昇を狙う政策です。主に政策金利の引き下げや国債といった資産の買い上げなどを通じて行われます。
お金の供給量が増えるとはいえ、人々の生活が豊かになるとは言い切れません。というのも、お金の供給量が増えるということは、その分、物価の上昇も引き起こすことになります。そのような状況下で労働者の賃金も同時に引き上げられなければ、生活に大きな影響を与えることは言うまでもありません。
この状況は、まさに現在の日本の状況に当てはまっているといえます。
一方、現在のアメリカが進めている金融政策は、日本とは反対の政策である金融引き締めです。
金融引き締めは、政策金利を引き下げる金融緩和に対し、政策金利の引き上げを行い、お金の供給量を減らす政策です。

アメリカでは、2022年から急激なインフレを抑制する目的で金融引き締めを実行しておりますが、物価上昇を抑えるために、さらなる追加利上げも検討しているといわれています。
このように日本とアメリカは方向性の違う金融政策を進めているわけですが、昨年の歴史的な円安進行についても、日本とアメリカの金利差が拡大する一方となったために、ドル買いと円売りが活発化し引き起こされたわけです。

昨年11月以来となる1ドル145円台まで下落

ドル下落イメージ画像

さて、6月30日の東京外国為替市場では、一時1ドル145円台まで下落し、昨年11月上旬以来の円安・ドル高傾向となりました。
この要因としては、やはり日本が大規模な金融緩和の維持を続けることを表明しているのに対し、アメリカの米連邦準備理事会(FRB)がさらなる追加利上げに動く可能性が高まったからであるといえます。
またアメリカでは、2023年1〜3月期の国内総生産の確報値が、改定値の1.3%から2.0%の増加と上方修正されたほか、新規失業保険申請件数が予想よりも改善。そのようなポジティブな傾向とともにさらなる追加利上げの可能性が生じている現状とが相まって、長期金利は3月上旬以来の水準まで上昇しました。
日本の大規模な金融緩和に対し、追加利上げの観測が高まるアメリカ。日本とアメリカの金利格差を見込み、金利が高く運用に有利となるドル買いが加速し、金利の低い円の売りが進んだということになります。

現状において円安に対して昨年ほどの警戒心はないが・・・

円安イメージ画像

では、このまま昨年と同様に円安の進行は続くのでしょうか。
結論からいえば、現状のように日本とアメリカの金融政策の方向性に違いが生じている限り、今後も円安傾向が維持される可能性が高いといえるのではないでしょうか。
昨年は、歴史的な円安進行を“非常事態”として捉え、政府と日銀が3度にわたって為替介入しました。その際の円相場が1ドル145円台であったこともあり、再び為替介入に動く可能性も否定はできません。
ただし昨年と異なる点は、新型コロナに関する規制が大幅に緩和されたこと。さらに感染法上の位置付けが5類に引き下げられたことにより、インバウンド需要に復活の兆しがみられています。
また、エネルギー価格の高騰はいったん落ち着きをみせていることなどもあり、円安に対して昨年ほどの警戒感が強まっているとはいえないようです。
その一方で、アメリカが今後もさらなる追加利上げを進めるようであれば、再び150円台まで円安が進行することもありえることでしょう。
そうなれば、エネルギー価格の上昇により電気代、ガソリン代といった価格の上昇を引き起こし、企業の経済活動や生活に大きな影響を与えかねないことは言わずもがな。
日本の金融政策とともに、アメリカの金融政策についても引き続き注視を続けていきたいところです。